約束破り

ガラスに額を押し付け、少し伸びた無精髭をさする。
地下鉄の最後尾、僕は闇の中小さくなる駅を見つめた。
「ダメダオレ・・」
今日はレコード会社のディレクターに新曲を披露する日だった。
わざわざ時間を取っていただいたにもかかわらず僕は約束を破った。
メロディーは完成してる、けど詞ができていない。
頭を打ち付けたくなる衝動に駆られながら重い扉を開けた。
「慎太郎の純粋な感情をぶつければいいんだよ」
中途半端な新曲を歌った僕は沈んだ。
しかしディレクターは背中を押してくれた。
「いつも書いてる日記みたいでいいんだよ」
僕は弱い、果てしなく弱い。
だから曲に向かう体制になると構えてしまう。
僕はこの日記を思いつくままに書いている。
誰にどう思われるかなんて考えていない。
まとまりのない文だ。
内省的な文だ。
けどこれが俺だ。
かっこ悪くてもいいから素直に詞を書いてみろよ慎太郎。
何で人の視線ばかり気にしてんだバカヤロウ。
くやしかったら自分に立ち向かってみろよ。
逃げて逃げて最後まで逃げて、結局傷つかず笑ってる。
お前みたいなやつが作る歌に誰が感動する?
正直な歌を作りたいよ。
「ダメダオレ・・」
地下鉄のガラスに何度も額を打ち付ける。
だんだん小さくなる駅の明かりが無性に恋しい。
ゴメンなギター、お前のせいじゃないんだぞ。
俺の努力が足りないんだ。
なぁギター、お前で早く新曲歌いたいよ。
苦しんでもいいからさ早く歌いたいよ。
逃げない歌詞で逃げない歌い方で、本心を伝えたいよ。
いっつも待たしてばかりでゴメンな、いつも支えてくれててゴメンな。