ビルの森

雨に包まれた有楽町を眺めている。
グレイの空と窓に映る自分の顔。
「ずいぶん雰囲気かわるもんだな」
自分の髪を指で弾く。
一週間後に控える写真撮影。
少し大人っぽいイメージと栗色から黒っぽく染めた。
急に映画が見たくなって途中下車する。
傘はない。
小走りで駆け込む映画館。
ヒソヒソと話しをする者。
寄り添い合うカップル。
紙コップのコーラをストローで吸うおじさん。
待合ロビーは静かな図書館のようで時間の流れがそこだけ遅かった。
気だるさが僕を包む。
街は傘の群れビルの影。
どこに向かうのかみんな濡れた靴を気にしてる。
小さい頃に傘を盗まれて泣いて帰った日があったっけ。
ビショビショになった服を母親は乾かしてくれたっけ。
イジメられちゃいなかったけど仲間外れにならぬよう気をつけた。
子どもの頃僕にとっちゃ学校は世界のすべてだった。
そこで無視に合えば生きていけない。
そこでイジメられれば未来はない。
防御の術を学ぶ。
イジメる側にならぬようイジメられる側にならぬよう。
醜いバランスを取りながらランドセルを背負った悪魔がいた。
そうやってごまかしながら社会に出た。
不意に舌打ちをしたい気分になる。
雨は降る。
身を守るハウトゥー本がコンビニではよく売れる。
テレビは今日も笑いながら「イジメられるぞ」と脅迫する。
みんな大人の顔した子どもだ。
誰があなたをイジメる?
誰をあなたはイジメる?
前回の映画が終わったらしい、扉から数人が出てくる。
ボンヤリとこんな日は孤独が心に擦り寄ってきて囁く。
「ソバニイテアゲヨウカ?」
ブザーとともに映画が始まる。
暗闇が僕の視界を奪った。
「結局俺は何を怖がってるんだ?」
エンドロールを眺め劇場を出る。
それぞれの場所に散っていく人。
まだ雨は降っている。
上を見上げれば街灯に照らされた雨が額を濡らす。
いったい何メートル上の空から落ちてくるのだろう?
ビルの森に降り注ぐ雫は行き場をなくしただただ寂しい。
引き裂くような電車の音に紛れて街のすすり泣く声を聞いた気がした。