シブいリンゴ

僕の部屋にはテレビがない。
というか置く場所がない。
誰かが「ハンカチ王子」の真似をした。
みんなが笑う、僕は???。
なっなっなんと世間とすれ違い!?
ラジオが僕の王国の主役。
ニュースだってちゃんと聞けるもん。
空を見上げながら誰かを想いながら。
しっかーし!「ハンカチ王子」は知らんかったぁ。
無念。
やはりテレビの時代か。
文明の最先端、洗濯機と電子レンジはそろった。
しかし奴にまで手を出す勇気はない。
ベランダに置くか押入れに置くかしかスペースはない。
「はやく大きな部屋に引っ越せるようになりなさい」
僕は今更何のための一人暮らしかを思う。
音楽に没頭するため。
料理ができる男になるため。
事務所へのアクセスを良くするため。
テレビを買うためじゃない。
何か変わりたくて逃げるように家を出た。
まだ未納の家賃。
乾かない洗濯物。
賞味期限切れのタマゴ。
雲間に浮かぶ月明かり。
机に向かう僕の影。
蛇口から滴る雫の音だけがミュージック。
僕は逃げてきたんだ。
何かしらの期待にすがって逃げてきたんだ。
今日のリンゴはやけにシブい。
フォークで刺した所から茶色く変色し始めた。
モシャモシャ噛み砕いてやれ。
まぁ逃げかどうかは今更関係ない。
ラジオかテレビかカラスの鳴き声か。
そんな大した事じゃない。
どう感じてどう動くかだ。
そうだろベイベー。
あぁそんなことより明日には家賃払いこまなぁ。