三食パスタ

「パスタの一味は愛情」
一人暮らしを始めた理由の一つに料理がある。
男だってキッチンに立てなきゃいけない時代さ。
布団をたたんで最近最初にやるのが鍋に水を入れること。
強火で沸かす間にフライパンでニンニクをあぶる。
「♪まかない食べるためだけにバイトに行ってたし・・」
「シェフ」の歌の中にあったように僕はサボり屋だった。
皿洗いしながらチラチラ時計ばかり見ていた。
「早くおわんねーかな・・」
鳴る腹を押さえて漂うパスタの匂いの中働いていた。
時々だがシェフが味見をさせてくれた。
ジェノベーゼ」というパスタが僕の一番の大好物だった。
あれはバジルの緑なのか、パスタにからんだそれが口の中で甘く広がる。
少しの苦味も後味を良くしもう一口食べたいという気にさせた。
「あの味を再現できないだろうか?」
ご飯を炊くのも面倒だった。
パンをかじってるのも何だかもの寂しかった。
握ったフライパンを大きく振る。
ガスコンロにこぼれ落ちるトマトたまねぎベーコン。
舌打ちしながらもアルデンテをとうに過ぎたパスタをザルにあける。
「あ!パスタのゆで汁全部捨てちまった!?」
本に書いてあった重要事項が排水溝に流れていく。
塩加減を調整できぬままパスタを皿に盛る。
多すぎて乗りきらずドンブリに移す。
「なんじゃこりゃ!?」
出来上がったものはとにもかくにもパスタと言う代物ではなかった。
細いうどん。
悔し涙を浮かべながら一人机に座りフォークですする。
なんだか今更バイトの思い出が頭を駆け巡った。
あの頃の自分と今の自分何が変わったんだろう?
今は三食パスタだ。
寝ても覚めても塩加減がチラつく。
ニンニク臭いと人に言われる。
しかし少し料理が好きになった今日この頃。
あのシェフの味にするにはあとどのくらいの愛情が必要なのだろう?