己郷‐こきょう‐

その景色は忘れもしない。
新潟駅前ロータリー。
大型スクリーンに映し出される芸能ニュース。
不規則に並ぶタクシーの波。
晴れ渡る空の下デジャブを味わったように立ち尽くした。
「酔いつぶれた街だ・・」
日本酒を一人で飲んでふらふらになりながらホテルに帰った。
あの日は激しい夕暮れが僕を焦がそうとしていた。
あまりの切なさに押し潰されそうで足が震えた。
ある人を想った。
会いたいとただ思った。
砂漠化してザラつく胸を癒すのは「酒」という逃げ道だった。
弱いくせに手酌でガンガンあおっては脳みそメリーゴーランド。
便所を抱え込むようにして吐いた。
とめどなく溢れる涙は胃酸のせいじゃなかった。
あれから半年、今回は八代さんとこの駅に降り立った。
息を大きく吸うとみるみる時間が巻き戻るよう。
シミったれた僕の情けなさが体にまとわり付いてくる。
街は僕を覚えている。
無視するでもなく待遇するでもなく横目で気にしてくれている。
開く扉、一瞬ためらいタクシーに乗り込む。
ガラス窓の外、あの日の僕が道端に座り込んでいた。