ぬくもり商店街

大きな公園を一回り。
羽を手にしたように気持が軽い。
僕は今日自転車を買った。
新しい町に移り住んでからというもの電車ばかり。
地理に弱い僕は線路図を見上げポカンと口を開けていた。
久しぶりのノンビリとした日、青空も手伝って気分も上々。
商店街をフラッと歩けば目に入ったのが小さな自転車屋
いざ見てみると様々な新型が発売されているのを知る。
ライトを手元で点けられるもの。
電動自転車に小型自転車。
なんと人型まである、と思いきやお店のおばちゃん。
夫婦で営むそこは店内明るく笑顔があった。
よく思うけれどやっぱり店は人で決まる。
愛想とかサービス以前に人柄が客を引きつける。
「これください」
多少重いけれど衝動買いの勢いに任せ赤い自転車を指さす。
少し安くしてくれと値切ってみたら千円安くしてくれた。
「名前入れますか?」
盗難や間違いを防ぐため自転車に名前を入れてくれるらしい。
少し照れながらうなずきイニシャルを言った。
するとおじさんがしゃがみこみ腕まくりを始めた。
僕はどんなふうに名前を彫ってくれるのか覗き込んだ。
するとおじさんはお尻のあたりから小さな缶詰を出し筆を手にする。
「手で書くのかよ!?」
目が飛び出しおじさんの食いしばる顔を見つめた。
S・K(シンタロウ クドウ)
やけに「K」が「S」よりでかい。
「はいできました」
なんとも堂々としたおじさんの笑み。
なんだか愛着も出てきたしお金も払っちゃったし「まっいっか」。
赤い自転車が人波をスイスイ抜けていく。
初めて乗れるようになった子供みたいに勢いを上げ。
学校の帰り道、よく鼻歌で曲を作った。
誰のためじゃなくそれは街の景色によくなじんだ。
家に着けば忘れてしまうつたない曲だけど、あの時は確かに名曲だったんだ。
風の中に置き忘れてきたメロディーをもう一度取り戻せるかな?
夕暮れ時の街からは家族を待つ幸せのにおいがした。


☆紅白まで152日☆