「まっいっか」

僕は小さい頃エレクトーン教室に通っていた。
年に一回の発表会が嫌いで嫌いでしょうがなかった。
順番待ちをしてるときなんか足が震えて仕方なかった。
「次は工藤慎太郎君です」
階段を目まいを起こしながら上っていく。
カチカチになったお辞儀をして汗びっしょりの手のひらを鍵盤に乗せる。
生きた心地のしない5分間。
スポットライトが焼き焦がすように熱く感じた。
じっとり汗ばむお尻。
世界一長い5分間をくぐりぬけ僕はお辞儀をした。
「おわったー・・」
ラソン大会とエレクトーン発表会。
この二つさえなければ僕の少年時代は天国だった。
僕は今テレビを見ている。
来週出演する「NHK歌謡コンサート
なんだなんだなんだ!?緊張してきたぞぉ。
カチカチのお辞儀しちゃいそうだぞ・・。
どこから来る緊張なんだろう?
どうしようもなくて僕は雨の中を一時間ほど走った。
何にも考えないで走った。
汗が出ると同時に少しずつさっきの緊張は消えていった。
過大評価。
そう、自分自身を大切にしすぎると人は緊張する。
「ありがたい」
そんな気持で臨めば素直に歌えるのに、僕は自分を過大評価しすぎていたらしい。
エレクトーンだって「上手く見せなきゃならない」って気持がカチカチお辞儀をさせたわけで。
自分少し天狗になってたわけだ。
去年の9月まで路上でライブやってた僕。
確かにたった半年でNHKに出演はやはりすごい環境の変化だ。
これに脳みそがついてってないことは認める。
けど緊張はおかしい。
けど緊張しちゃう。
いつもの呪文を唱えるしかないか。
「まっいっか」
今日は寝転がって本読んで笑って寝よう。
夢の中でエレクトーンを弾かないことを願って。