手招くマンホール

夕日に背を向け走る。
長い長い影を追いかけて土手沿いの道を。
橋の上の渋滞とオレンジに染まる雲。
汗まみれのTシャツが体にへばりつく。
訳もなく虚しさに包まれて僕は家を飛び出た。
気づけば気づくほど考えれば考えるほど何が正義かわからなくなる。
見つめれば見つめるほど人の痛みがわかるようになる。
急に落ちる無意味さのマンホール。
暗い暗いじめっとした底の見えないマンホール。
目をそらしても手招く影に僕は逃げられない。
僕は走った。
すっかり沈んだ夕日の残骸が落ちてる。
ラクションの鳴り響く街を抜け、いつものラーメン屋の前を通り過ぎる。
幸せのにおいがした。
全身から滴り落ちる汗に激しく息をして待つ交差点。
赤から青。
「それぐらいどうしたんだ・・」
もう一度地をけり走り出す。
遠ざかる黒いマンホール。
命は激しいものだと知りました。
愛とは激しいものだと知りました。
残酷すぎる現実を受け止めながら皆生きていくのだと知りました。
さっきまであった夕日の残骸、僕の心に染み込み消えていきました。