前橋ドームにて

あちらこちらから手が伸びてきた。
僕の目線は定まらず、カメラを見たり握手をしたり。
「がんばってね」
怒涛のCD売り場は修羅場と化していた。
スタッフ総勢10人体制、準備万端やる気満タン。
「慎太郎のCDはこちらになります!」
前橋ドームのべ人数1万2千人。
スポットライトの逆光のせいで目の当たりにはできなかったが、そこには「人の壁」が確かにあった。
計2回行われた八代さんのコンサート、1回に6千人の観衆を熱くさせるバトル。
人数とはそれだけで威圧感を感じさせるものがある。
八代さんに呼び出されステージに上がる、その瞬間僕に1万2千個の目線が突き刺さる。
勝負開始。
路上と変わらぬスタンスで話し歌う、喰らえーいつもの慎太郎アタック!
「声をなくしても」「Message」「シェフ」八代さんとデュエットの「竹田の子守唄」。
僕の声は天井を突き抜け大気圏へ、ドームの天井に大きな穴が開いた。
「がんばります!」
僕の手はすでに3百人以上の手に握られている。
もみくちゃになった場内からは悲鳴に似た声が聞こえた。
CD総売り上げなんと600枚。
たった一日で「シェフ」が600枚売れたのだ。
レコード会社の方も驚嘆を隠せず目を丸くしていた。
今でも僕の右手は少しジンジンしている。
なんだかとんでもないことが起こりそうな予感。
霧雨の中を期待と不安が交差した。