ドラキュラはピンクがお好き

僕はどちらかというと光より闇を好むらしい。
昼真っからブラインドを下げて部屋を真っ暗にする。
机の前のスタンドだけ灯すと妙に落ち着く。
コンサートの控え室も煌々と灯る化粧用の明かりを消し薄暗くする。
「普通は控え室って明るくするものなのよ」
マネージャーは笑いながら言った。
もちろん僕はドラキュラじゃない。
太陽が苦手とかそんなことじゃない。
けど「居心地のよさ」って必ずその人ごとにあると思う。
渋谷新宿池袋、洋服を見に行く。
手に取るものはどう見えるかより「居心地の良さ」をまず考えてしまう。
スーツやフォーマルなスタイルは自分が緊張する。
あまりにもルーズだと人目が気になる。
ただ単に着慣れてないだけかもしれない。
ただ単に思い込みが激しいだけかもしれない。
本当のオシャレって何だろう?
お金があれば好きなものを好きな時好きなだけ買える。
けれど自分にしっくりくるものと巡り合うチャンスはそうない。
前まで毎日のように違うスタイルで歩く人を「オシャレ」だと思っていた。
けど今は本当に自分の好きなものを着続けることも「オシャレ」の一つなんじゃないかと思うようになった。
脱ぎ捨てられたピンクのパーカー。
僕はこいつが好きだ。
色も好きだけど、こいつとは相性がいい。
誰にどう思われようと好きだ。
素敵なものはこの世に数え切れないほどある。
しかし、愛せるものは数えるほどしかない。
それを気づけるか気づけないかで運命は変わる。
ブラインドの下りたピンクのパーカーが転がる部屋。
外からは隣の工場の騒音が鳴る。
けれど僕にとっては数少ない「愛せる場所」の一つなのだ。