シェフおじさん

永遠なんてないことを知る。
月の綺麗な夜にメールが届いた。
「永井さんが倒れた」
タウンページをひっくり返しながら親は知り合いの連絡先を探す。
僕はといえば何が起こったのかもわからず突っ立っていた。
出会いは一年前の路上ライブだった。
僕が歌っている前にズンとスーパーの袋をぶら下げたおじさんがいた。
いつからかその人は毎週来るようになった。
「シェフ」を僕が歌いだすと、声にならない声で喜び満面の笑みになる。
「知り合いの飲み屋のママに紹介したい」と僕を誘った。
何度もライブに足を運んでは「シェフ」を大声で歌いヒンシュクをかったりもした。
いつからかその人は「シェフおじさん」なんてあだ名がついた。
そしていつからか僕を囲む家族の一員となった。
ここに一枚のCDがある。
去年の12月に行われた川口リリアでのライブの模様が録音されている。
隠し持ったレコーダーで録ったのだろう、雑音の中かすかに僕の歌が聴こえる。
永井さんはこいつを持って僕の家に遊びに来た。
丁寧に印刷された表紙の写真、曲目リストまで印刷されている。
何度聴いてくれたんだろう?
このCDで一番大きな音で録れているのが永井さんの大きな笑い声。
きっと胸ポケットあたりにしまっていたんだろうな、そう心の一番近くに。
永井さんの魂の音が聞こえる。
昨日の朝、永井さんは天国に行ってしまった。
今日の僕のコンサート楽しみにしてたのに。
歌っているとまだいるような錯覚に陥った。
笑い声が聞こえたような気がした。
ねぇ永井さん、今どこにいますか?
リリアの大ホールでのコンサートも決まったしTVも出るよ。
いっしょに「シェフ」歌おうよ。
誰もやな顔しないから大声で歌おうよ。
ずっと待ってるから、永井さんのこと待ってるから。
ね、またいっしょに「シェフ」歌おうよ。