地球という名の船にのり

駅前でいつものように行われる募金活動。
「お願いしまーす」
僕は目を伏せそそくさと通り過ぎる。
携帯電話で話す人、時間に追われ歩く人。
それぞれの理由が行きかう駅前。
「お願いしまーす」
世界は今幸せなのだろうか?
地球は今どんな病を患っているのだろうか?
家族や恋人、そして自分を守ることに精一杯の僕達。
何のために生きているんだろう?
あの子供達に握られた四角い箱には未来の本当の幸せが入っているのだろうか?
僕は明日死ぬかもしれない。
これは紛れもない事実。
誰もが抱えたこのパーセンテージを懐にしまいこみ誰にも見せないようにしている。
真実とは突き詰めれば「死」だ。
大海原に浮かぶ一艘の船。
前しか照らさぬ明かりを灯し、暗闇を旅している。
「今」という帆に吹く「希望」という風。
しかし僕達は海の存在を忘れてしまっている。
大波に襲われて初めて気づく限りある命。
テレビの中だけのことと自分の身を案じない。
もうデッキはボロボロなのに。
もう食料も底をつきはじめているのに。
「お願いしまーす」
あの四角い箱、あの希望は僕達の船を本当に進ませてくれるのだろうか?
僕は思う、本当にこの船を救うのは「愛」だということ。
「愛」という名のオールを持ちそれぞれがこの船を漕ぐのだ。
「世界平和」
なんだか他人事のような響きを持った言葉。
僕達の船は刻一刻と海の中に引きずり込まれている。
海を忘れた人々が酒とタバコを燻らす内に、船底では数百万の悲鳴が上がっている。
僕達は地球という船に乗っている。
たった一艘の船に乗っている。