10分の戦い

綺麗にまとまろうとする自分を押し分けて魂がやってくる。
形のとどまらない太陽の波のように宇宙に手を伸ばそうとする。
今日は初の民放歌番組「名曲の時間」の撮影だった。
超がつく有名人の方々に囲まれテンションがおかしくなった。
去年の自分は何をしていた?
こんな自分を想像できたか?
夢と現実のはざ間で僕の体は熱くなっていった。
早まる鼓動が耳に聞こえてくるほど緊張が突き刺さった。
マネージャーの「大丈夫!」の一言。
僕は天井にぶら下がるスポットライトを見つめた。
上を向いて歩こう
いつからか心に決めた合言葉。
冷凍保存もしないホカホカの工藤慎太郎を見せてやれ。
10分の戦い。
もうめちゃくちゃだった。
何が何だかわからなかった。
けど歌って、頭をさげてた。
控え室に戻っても頭がボーっとした。
テレビにはさっきまでいたステージが映し出されている。
お茶をがぶ飲みして紛らそうとしてもおさまらない魂の振動。
座布団の上、僕は腹話術の人形のように動けなかった。