音楽少年

その手は大きかった。
「よろしく」
ギュッと握られた手からは世界を唸らす貫禄と情熱が伝わってきた。
今、僕の目の前にはあの日野さんがいる。
テレビで見ていた時と同じような髭、笑うと下がる優しい目尻、そして取り出した鈍い金色のトランペット。
今日は八代亜紀さんの35周年メモリアルディナーショウのリハーサル。
八代さんだけでもすごいのに日野さんまでいるのだ、このリハーサル熱くならないわけがない。
「どんなふうに日野さんリハーサルやるんだろ?」
その答えに僕は驚くことになるのだが、まずその前に彼の吹く姿に驚愕する。
そう、彼の頬っぺたがカエルのようにプクッと膨らみ、首はまるで大木のように太くなった。
「なんじゃこりゃー!」
人間離れした筋肉の動きとトランペットの音量に体が震えた。
「リハーサルから本気だこの人ぉぉ!!」
手加減無しで迫る彼の迫力と存在感、文句なしの一級品。
音楽は言葉の壁を越えるというがテクニックや音色じゃない、結局「情熱」が壁を越えるのだ。
彼が指を指しながらバンドを操り、気持ち良さそうに腰を振り出した。
才能とは「楽しめること」なのだろう。
音楽少年が今も目の前で腰を振っている。