早朝5時のフロントには誰もいなく、薄明かりの中クラークが一人立っていた。
鍵を渡し自動扉をくぐる。
僕は今、青森グランドホテルのチェックアウトを終え10分後に発車する新幹線に乗り込もうとしている。
静かなホームと肌寒い空。
何人かがどんぶりを抱え込みながら立食い蕎麦をすすっている。
「のびのび歌えたならそれでいい」
ギターとトランクを両手に列車に乗り込む。
「まだまだですけどのびのび歌えました」
5号車3A窓側。
棚に荷物を上げ四角に切り取られた青森に別れを告げる。
窓の外は曇り。
「慎太郎は細かいことよりも若さをぶつけて歌っていけ」
発車のベルが鳴る。
なかなか寝付けなかった重いまぶたを閉じ、昨夜のコンサートを思った。
次々浮かぶ課題、練習不足、極度の緊張。
そして社長からの言葉、励ましの言葉。
「まだまだ‥」
胸に沈む不安は挑戦という力にかわり次のコンサートの目標となる。
青森の海の青さを横目に、僕は今日を睨みつけた。