流血の幕開け

思ったようにはいかないもんだ。
昨日のアルバムの選曲会、波乱な幕開けだった。
「こちらが新人の工藤慎太郎君です」
マネージャーが僕のことをレコード会社の方々に紹介する。
と、そこには鼻にティッシュをつめこんだ青年が。
なんと初対面から鼻血をだして登場してしまったのだ。
「鼻になんかつまってるな・・」
指を突っ込んだとたん噴火。
これにはたまらなくレコード会社の方々もビックリされていた。
「そんなに歌う前から興奮しないでいいよ・・」
さて、肝心な歌の方はといえば消化不良気味?
しょうがないといえばしょうがないがレコーディングスタジオという小さい小部屋で歌うことに慣れてないせいか自分の気持ちをトップギアに入れられるまでが遅かった。
緊張ももちろんあるだろう、しかしヘッドフォンをしながら歌う難しさ、そして目の前にオーディエンスがいない不安定さ(別ブースで聴いてるんだけど)
どれをとっても初に近い体験。
しかしこれからは「初であり最後である」みたいな体験が山ほど待ち受けているんだろう。
言い訳なんて関係ない、一発勝負だ。
「八代は発声練習しないんだ」
八代亜紀さんの事務所の社長が言った。
話によればコンサートでも歌番組でも彼女は途端に気持ちも喉もトップギアに入れられる力があるのだという。
だから事前に発声練習をすることはないのだ。
「だから慎太郎も一発ここだって時に力を100%発揮できる力を持たなきゃダメだ」
選曲会の帰り、社長は言った。
いったいこれから僕はどんな風になっていくんだろう?
そしてどんな風になりたいんだろう?
疑問だらけだが鼻血で始まった僕の初仕事、まずは順調なすべりだしと言えようか。