課外授業

やけに焼肉を食いたくなるときがある。
ガラスケースの向こうに並ぶプラスチックのカルビ。
「ヨダレ出てきた・・」
僕と増木さんは腹を抱えながら列の最後尾に並んだ。
少し曇った空、生ぬるい空気。
もしや昼のテレビで「焼肉は体にいい!」とでも言っていたのか、どの焼肉屋もいっぱいだった。
しょうがなく並ぶ二人。
「韓国ってキムチ食べ放題なんだよね」
「え!?そうなの?」
空腹を紛らすように話していると、ふと高校の時の思い出が頭をよぎった。
ある日友達が韓国行きのチケットを取ったのはいいが、フライトの時間が問題だと言う。
僕がそのチケットを覗き込むと、18:00発と書いてあった。
「うわっこれホームルーム終わったらすぐ成田にダッシュしなきゃ間に合わないじゃん!?」
こうして『学校の帰り道に韓国行っちゃおう大作戦』が決行されたのだった。
出発の朝、僕は2、3日分の下着を学校のカバンに詰め、内ポケットにパスポートを忍ばせた。
友達とは駅で作戦の成功を祈るように頷きあった。
授業が始まる。
ソワソワしている仲間たち。
やけに目が合って仕方がない。
休み時間になるたび始まる仲間同士の韓国語講座。
カムサハムニダァ!」
待ちに待ったホームルームの時間。
「えー、持ち物検査を実施する」
緊急事態発生!
僕達は下着をスポーツバックに入れ替え韓国のニオイを消した。
「先生フライトの時間が来ちゃいます!」
仲間が冗談半分で叫ぶ。
近寄る足音。
祈るように先生が通り過ぎるのを待つ。
「韓国ぅぅぅ・・」
願いが通じたのか荷物検査を無事通過し僕らは立ち上がった。
「起立!礼!」
僕達は時速300Kmで下駄箱に走った。
「韓国行ってきまぁぁす」
制服姿にパンパンのスポーツバック片手に巡る韓国はとても不思議な体験だった。
隣には数時間前まで上履きを履いてた仲間達がいる。
焼肉、免税店、ロッテランド、そして夜の東大門市場。
目が回るような予定の中、これ以上ないほど僕たちは笑いあった。
なんだか学校をサボって韓国に来ている気分だった。
「ウォォォ・・カムサハムニダァァァァァァ・・」
旅はあっという間に終わり、帰りの飛行機の中、行きより膨れ上がったスポーツバックとヨダレを垂らしながら眠る仲間達がいた。
3日あまりの課外授業は終わりを告げようとしていた。
その時僕は一つ心に誓った。
「絶対また韓国来るぞ、学校帰りじゃなく・・」
肉が焦げている。
黒くなってしまったカルビをつまみながら増木さんに呟いた。
「韓国は焼肉おいしいよ、やっぱ本場だね」
彼はまだ韓国に行ったことがないらしい。
そこで僕は今、彼を韓国に連れて行く計画を練っている。
「ライブの帰り道に韓国行っちゃおう大作戦!」
なんちゃって・・。