蜘蛛の糸

今日「Sting」という歌手の成り上がり本を読んだ。
彼は僕が二十歳の頃にハマッた歌手の一人で、洋楽嫌いの僕の耳を引っ張った。
独特の声とメロディーには何度聴いても味わい深い奥行きを感じた。
「あっStingの本だ!」
僕は手に取った瞬間ぶっ通しで読んだ。
その中には下積み生活のことや、恋人、友人、家族のことも書いてあった。
「なーんだStingも同じじゃん」
読み終わったあとの僕の感想である。
下積み生活というゴールの見えない旅はとてつもなく孤独で不安な道のりだ。
周りの皆が就職し結婚し安定した生活を送る中、「まだ音楽やってんの?」という鉛のような言葉を投げられる。
先は見えない、真っ暗闇に夢という名の小さなペンライトを照らし歩くようなものだ。
それに数知れないライバル達の足音、先を急がなければという強迫観念。
時間は過ぎ、仲間は去り、諦めの風が吹き付ける。
しかしデビューという名の光が僕を何度も駆り立てた。
「スタートラインにも立ってねーのに止められっか!」
僕は何度も心に呟く。
そして蜘蛛の糸のような光が僕を導く。
そうTV番組の出演だ。
「最後の賭け、これがダメなら諦めよう」
緊張と混乱の中で今までの全てをぶつけた。
いろいろな評価が僕の前に並べられ、褒められ、けなされ、笑われた。
しかし僕には確信的なものがあった。
「他の奴と覚悟が違う」
僕は歌手になるべくして生まれてきたのだと信じ込み疑わなかった。
それが伝わったのか、10週勝ち抜きチャンピョンという名のデビューの扉にたどり着いたのだった。
僕は確実に成長していた。
歌い方、歌うときの気持、そして表情。
何もかもTV前と後では違っていた。
Sting」の話に戻るが、彼もデビュー前にみるみる成長していき自信をつけていく。
それに引っ張られるように運が向き始める。
「デビューは宝くじのようなもの」
誰かが言った皮肉、しかし確実に的を射ている。
Sting」も諦めの風に何度も吹かれ、心が荒んだ時期があった。
しかし彼がどうして何万というバンドを押しのけデビューを手に入れたかといえば、答えは簡単だ。
「自分に対しての絶対的な自信」
彼はそれを持っていた。
夢だろうがなんだろうが、自分はイケてると思える確信的な何か。
僕はそれを本当の才能だと思っている。
どんなミュージシャンも努力すればある程度のレベルにいける。
けれど自分をとことん信じられる気持がなければその上の壁を突き破れないのだ。
ある意味「使命感」というやつかもしれない。
Sting」の本は僕に勇気をくれた。
「いいんだ」そう背中を押された気がした。
この先僕は自分をとことん信じてあげられるだろうか?
孤独という名の風に吹かれながら歩き続けられるだろうか?
「音楽が好き」
これから先の道のりは、これだけでは済まされない巨大な何かが待っている。