「僕」と「俺」

自分のことを最近「僕」と呼べるようになった。
なんだか子供のようで恥ずかしい。
けれど自分にとっては大きな成長だ。
中学の頃から僕は自分のことを「俺」と呼びはじめた。
友達の中で「僕は・・」なんて言ってたらバカにされそうだったし、何より自分は男だと示したかった。
けれど頭は子供のくせに体だけ大きくなっていった僕は無理が生じ「僕」と「俺」が喧嘩をしはじめた。
親は子供扱いし、先生は大人扱いし、友達は両方求めた。
僕の中の歯車がかみ合わなくなったとき、僕の手は母親の襟首をつかんでいた。
反抗期だ。
自分の居場所がわからず苛立った。
人とうまく話せない日が続いた。
僕は高校を卒業し、社会に出た。
そこでは自分と同じように、「俺」と自分を誇示する人達が溢れていた。
「弱い犬ほどよく吠える」というが、強がることでしか自分の居場所を示すことができないからだ。
そんな人たちを見ては同情し目をそらした。
そんな中、自分のことを「僕」と呼んでいる人達に出会う。
「なんだよ「僕」って・・いい大人なのによ・・」
はじめは抵抗を感じた。
しかし、そんな人たちの方がよっぽど自分より強いことを知る。
あきらめとも違う、強がりとも違う、自分を「僕」と呼べるすごさ。
そんな人達の笑顔は輝いていた、無垢な瞳に涙を浮かべ、まるで子供のように素直だった。
時が経ち、徐々に苛立ちは治まっていった。
「僕」と「俺」の喧嘩は終わり、子供のように笑えるようになった。
「私は弱い人間です」
今では胸を張って言える。
人は自分の弱さを知って初めて強くなれるのかもしれない。