ウロコの光

僕は本が好きだ。
今1番好きな作家は原田宗典
彼の作品はテンポがよく、身近で共感できる。
彼のある作品に救われたことがある。
僕が友達もいない、仕事も中途半端、歌の夢もあきらめかけていた二十歳の頃、フラッと立ち寄った本屋で、うなだれた少年の絵の横に「十九、二十」と書かれた本を見つけた。
その本には、やり場のない気持を抱えた十九歳から二十歳にかわる青年の日常が描かれていた。
その青年は僕そのものだった。
胸の奥が苦しくなるほど共感できた。
かっこわるい自分、切ない恋、夢と現実、金にならないアルバイト。
同じ環境にあった僕は涙で文字が見えなくなった。
高校を卒業した僕は大きな期待を抱え社会へと出た。
しかしそこは大海原だった。
まるで川で泳いでいた魚が急に海に放り投げられた、そんな気分だった。
溺れそうになっても誰も助けてくれなかった。
目的を失い、自分がどの方角に向かっているのかわからなくなった。
そして泳ぐことを止める事が一番楽だと知った。
けれど体は沈む一方である。
深海の暗さが手招きする恐怖におびえながら迷い、悩み、傷つき、悠々と泳ぐ魚達を羨んだ。
そして僕の周りに誰もいなくなった。
深海は静かだった。
ただ繰り返す毎日に疲れきった魚が感情をなくし漂っていた。
僕はいっそすべてをあきらめようと思った。
そうすれば楽になれる気がした。
そんな時遠くから一筋の光が差し込む。
こんな深海にも太陽は光を届けてくれる。
無償の愛。
乾いた目から涙が溢れる。
「どうしてこんな俺に手を差し伸べてくれるんだろう?」
涙はとめどなく流れ、体が浄化されていく。
僕のウロコは太陽の光で七色に輝きだし、他の魚のウロコを照らし始めた。
闇に閉ざされた深海はあっという間に光の洪水となり、光の道しるべになった。
道に迷っていた魚達も一斉にその光を頼りに泳ぎだした。
僕は無償の愛に救われたのだ。
原田宗典さんの本には「がんばれ」でもなく突き放すでもなく、ありのままの青年の姿が描かれていた。
そこに僕は無償の愛を感じ、救われたのだ。
同情より慰めより淡々とありのままを見せた方が心は伝わる。
原田宗典さんはそれを知っている。
だから好きだ。
道に迷った時には、「十九、二十」を読むことをお勧めする。
あなたのウロコもきっと光りだすことだろう。