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イギリス留学していた時のことである。
雨が降っていた。
傘もささず黙って学校に向かっていた。
妙な感触を足の裏に感じた。
犬のう○こである。
彼らはイギリスの田舎町に沢山生息し、気を抜くとすかさず足の裏に擦り寄ってくる。
僕は舌打ちしながら足の裏を引きずり、彼らを引き離そうと必死になっていた。
その時また妙な感触を足の裏に感じた。
牛のう○こだった。
彼らもまたイギリスの田舎町に多く生息し、臭さはトップクラスでこびり付いたら離れない。
僕は愕然とした。
今までの人生で30秒以内にう○こを2度踏むなんて過ちを犯したことがなかったからだ。
もう僕の足の裏はどうにでもしてくれ状態であった。
ここまできたら象のう○こでもキリンのう○こでもなんでも来いやー!という気分だった。
僕は走った。
学校まで走った。
雨の中を汗とも涙ともよだれとも言えない雫を振り乱しながら。
坂道を登り、丘の上に立つ学校へたどり着いた。
息が切れていた。
吐く息は白く、額には汗がにじんでいた。
「なんか臭くない?」
誰かが言った。
僕はすぐUターンしトイレに向かった。
足の裏にはまだ茶色の残骸がこびり付いていた。
「ふざけんなよ〜・・」
靴をかかえ天を仰いだ。
そこには僕を笑うかのようにチカチカと今にも切れそうな蛍光灯があった。
鏡を見ると、薄明かりの中たたずむ僕はまるでずぶ濡れになったみにくいアヒルの子のようだった。
「何悲劇のヒーローになってんだ俺」
少し我に返り自分を鼻で笑った。
目をつぶり息を整え頭をフル回転させた。
「どうすればバレずに授業を受けられるんだ?」
まずトイレットペーパーでう○こを拭き取れるだけふき取った。
それでもまだ奴らは抵抗してきた。
つま楊枝でもなけりゃ奴らには勝てそうもなかった。
イギリスにつま楊枝なんかない、こんなとき日本の文明の力を羨んだ。
しょうがなかった、僕は靴をあきらめトイレの隅に靴を隠し裸足で教室に向かった。
みんな僕の足をジロジロ見た。
何気ない笑顔で、
「靴が来る途中穴あいちゃってさぁ」
「何やってんだよ!」
みんな笑っていた。
どうにかこのまま切り抜ければ1時間目の休み時間に水で洗って靴をきれいにできる。
「なんかトイレ臭いんだけど」
教室の扉が開き誰かがつぶやいた。
一難さってまた一難。
冷や汗が垂れた。
僕は目をつぶった、この世の終わりを感じた。
しかし誰もトイレの臭さを追究せず授業は始まった。
先生の言うことなど耳に入らず、トイレの隅の靴を想った。
遠距離の恋のようだった。
誰かにいたずらされてないか、誰かに泣かされてやしないか。
1時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、みんなトイレの方に歩いていく。
走った、僕は走った、誰よりも早くトイレに走った。
そして隅に隠していた靴を見つけるやいなや、トイレの窓を開け靴を外に思い切り投げた。
靴はスローに弧を描き、地面に叩きつけられ誰もいないバスケットコートに転がった。
「ごめんよ、本当にごめんよ・・」
無残にも靴との恋は終わりをつげた。
それからというもの僕は下を向きながら歩く癖がついてしまった。
♪下を向いて歩こう・・う○こを踏まな〜いよぉぉに・・(涙)