夏の残骸

なんだか「悲しみの匂い」みたいなもんが夏の夕暮れには含まれている。
昼間かっらグダグダ眠ってまた舌打ちするんだろう「クソッ」って。
窓からの風を胸いっぱい吸い込むとなぜか子供の頃の記憶に包まれる。
帰ってこない母親を待つ自分が部屋で一人でいる風景。
包丁のような切なさが滑り込んで僕の体を音も立てずに切り刻んだ。
僕は一人っ子だから一人でいるのになれているのか?
こんな日は外に友達と普通繰り出すものなのか?
友達があまりいない僕にはわからない。
タバコは肺まで吸い込まない喉がやられるから。
中途半端な紛らし方だ、夏の夕暮れは嫌い。
最近上手く笑えてない気がする。
まるで喉に小骨が突き刺さって抜けないみたいに。
心のバネが軋んでる。
「下手くそに笑うピエロさんいつか風船が割れるのを待ってる」
さっきから水道の締めが甘かったんだろう、落ちる雫の音がうるさい。
通り過ぎるスクーターも遠くから聞こえるトランペットの音も蝉の鳴き声も。
夏が乾いていくようにポロポロこぼれていく。
吹き込む風がその残骸を部屋の端へ端へ追いやってホコリのように溜まる。
部屋の中だけじゃない。
街のあちらこちらに黙ったまんま夏の残骸が揺れている。
電線に絡まってたりカラスについばまれたり排水溝の中に落ちたり。
削られていく記憶の中で今の僕はどんな形で消えていくんだろう。
明日にはいない今の僕を特別扱いできるほど過去の自分も覚えちゃいない。