原点回帰

デビューしてもう7ヶ月が経とうとしている。
沢山の人との出会い成長そして葛藤。
意見を聞けば聞くほど自分を見失ってく僕。
八方美人なんだろう、皆に気に入られたい。
マスターベーションにならぬよう気を配るライブ。
今日は良かったのか?悪かったのか?
頭を抱え、舌打ちをし、自分を罵倒した。
電車に映る自分の顔も歪んできた頃、歌が怖くなっていた。
曲を作ろうとしても完成度が低いとクシャクシャにした。
自分で書いた詞を幼稚だと鼻で笑った。
もう布団にくるまり闇に逃げ込んだ。
「シェフに帰ればいいのよ」
八代亜紀さんは言った。
岡山のコンサートを終え帰りの新幹線。
窓の外ばかり眺める僕を隣の席に座らせた。
嘘はつけなかった。
今抱えてる不安を全部言った。
甘えだとわかってた。
プロだから辛くて当前だと知っていた。
けど亜紀さんの横でポロポロ泣いた。
優しい人達に出会えた、その期待に応えたい。
しかし空回りするエンジンが虚しく響くだけ。
そんなスカスカの胸の中を亜紀さんの言葉が清水のように流れた。
カッコいい曲は誰でも歌える。
しかし「シェフ」のような歌は慎ちゃんにしか歌えないという。
背伸びをしなくていい。
ありふれた景色をありふれた人生を「がんばれ」と歌ってくれという。
そのためにもいつも「シェフ」を心に曲を作りなさいという。
考えてみれば僕を救ってくれた歌は決してカッコいい歌じゃなかった。
海援隊が歌う「贈る言葉」や松山千春さんが歌う「大空と大地の中で」
良い悪いじゃなく、そこには優しさがあったんだ。
そんな歌が歌いたくて僕はここまで来たんじゃないか。
「シェフ」に戻ろう。
そしてもう一度歌を愛してやろう。
そう思った。