乳首の透けた孫悟空

いきなり降ってきやがった雨。
靴もぐしょぐしょ、靴下の中までずぶ濡れだ。
傘も持たずに背中を丸め駆け込む人たち。
僕はどっちにしたって汗でシャツが肌に引っ付いてる。
ランニングは夜に限る。
なぜか距離が短く感じるし街のネオンと月と星。
余計なことも考えずアスファルトの上を進めばいい。
今日の天気は朝から不調、神様のお腹が下っているのか降ったり降らなかったり。
夕方の空は格別だった。
「天国の空ってあんな風なんだろな」っていう感じ。
夕暮れのやわらかいオレンジと雲の隙間の青空。
一人暮らしの窓から天国の街が広がっていた。
ヘッドライトを横切る激しい雨。
僕は水溜りを蹴散らし突っ走った。
横目に入るショウウィンドウ、綺麗な服や雑貨そして家具。
いつか行ってみたい店を逃さずチェック、けどお金ないな。
すれ違う人々は誰も知らないし年齢も様々。
どんな人生を送ってきたんだろう?
ホウキで店の前をせっせと掃除する腰の曲がったお爺ちゃん。
その横を携帯片手に大きな声で笑う女。
またその横を汗まみれで乳首さえ透けてしまっているTシャツの男が走る。
人生が交差して僕の悩みなどちっぽけなものに摩り替わる。
僕は生きていくんだ、ずっとこれからも。
黙々と黙々と。
宇宙の中をゆったり回る地球。
その上を蟻んこのような僕が駆けずり回る。
雨が降っただとか腹が減っただとか。
微笑むおしゃか様の手のひらの上、必死に暴れる孫悟空
なんて無情の雨だろう、なんて希望の雨だろう。
少し弱い自分を認めてやろうと思った。
そっから何かが始まるとそう思った。