第二の産声

帽子を深々とかぶりなおす。
周りを見渡しながら入るCDショップ。
「いらっしゃいませー」
何気ない顔して内心ドキドキ。
なにせ第二の産声を上げる日が今日なのだ。
僕は幼い頃から歌手を夢み、それを頼りに生きてきた。
失恋も失敗も失望もいつも「歌」が救ってくれた。
一年前の家族会議。
「慎太郎、そろそろ将来を考えなさい」
覚悟を決めて望んだオーディション番組。
首にかかった10個のメダル。
奇跡の出会い。
大粒の涙。
僕は今、沢山の人々に支えられ生きている。
工藤慎太郎デビュー」
目の前にある棚の一番上にそれはあった。
青色に染められたジャケットには涙をこぼす僕の横顔。
けして今時とはいえないシンプルな表紙。
僕は思わずユーターンしCDショップを出た。
肩が震えていた。
笑いが止まらないのだ。
「くぉー!」
声にならない声。
うれしさと恥ずかしさの津波
まるで自分の股間をマジマジと見られているような。
かといって快感のような。
作詞作曲をしている自分にとって作り物ではない赤裸々な自分。
歌を通して自分の裸体を見られているような感じなのだ。
「いつかきっと誰もが知ってるジャケットにしてやるからな」
振り返り、涙をこぼす自分の横顔に呟く。
僕はまた帽子を深々とかぶりなおし歩き出した。