道標(みちしるべ)

「慎太郎がもしスターになってお金をかせいだら両親にまず何を買ってあげたい?」
八代亜紀さんの潤んだ瞳が僕を見つめる。
静まり返る会場、照らすスポットライト。
「父親の頭に髪を植えてあげたいです」
その瞬間、八代さんの腰は浮き上がり会場は笑いの渦に包まれた。
何不自由ない生活、ただ足りないものといえば父親の髪の毛ぐらい。
「家を買ってあげたい」より先に「植毛」という現実的なことが口から出てしまった。
八代さんは笑いながら次に両親について尋ねてきた。
「慎太郎は両親にどんな風に育てられたの?」
僕は答える。
「自由に育てられました」
なんだかトンチンカンな会話だったけれど会場には柔らかい空気が残った。
八代さんとはトークでバカ話をする時もあるし、真剣な話をする時もある。
けれど必ず彼女は僕の目を見て喋ってくれる。
「歌は心よね‥慎太郎」
僕は音楽を始めてからずっと考えてきた。
何が本物なのか?本物の歌とは何なのか?
疑問が疑問を呼び答えはでない。
けれど彼女の瞳を見つめていると、いつかその答えが見つけられる気がしてくる。
彼女が見つめている先、それは僕の道標。